指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

星乃珈琲店に行く。

 家人がフレンチトーストが食べたいと言うので池袋の星乃珈琲店へ行く。家人はフレンチトーストにオレンジジュース。僕はハムチーズトーストにオレンジジュース。珈琲店と言ってるのにコーヒーは飲まない。眠れなくなっちゃっちゃうからね。ハムチーズトーストはやさしい味で本当においしかった。明後日の日曜がお休みなのでまた行くかも知れない。それから西武にある無印良品で家人が欲しいものを探したらことごとく在庫がなくて完全な空振り。まあそういうのは仕方ない。店舗によって品揃えが違うかも知れないし。無印からエスカレーターで一階分下りた三省堂書店で一瞬だけ新刊見ていい?と家人に断って新刊の面陳スペースを見たら目に入ったのがハードカバーの「中国行きのスロウ・ボート」。なんか復刊されたらしい。僕は二十代に買った文庫本のこの作品を今でも持ってて折に触れてと言うかあの本読み返したいなと思うと(そんなことを思うことがたまにある。)本棚から引っ張り出して読んでいた。若い頃はもっと時間があったのでもっといろんな本をしょっちゅう読み返してた。ベッドにごろんと横になってもう何度も開いてきた同じページを飽きることもなくめくる。今思うと本当にぜいたくな時間だった。その中でもこの作品は一、二を争う読み返され率だった気がする。何がそんなに気に入っていたのか。わからない。今もってわからない。そういうことって考えなくちゃいけないのかな。考えて理由をはっきりさせなきゃいけないのかな。ただ好きってことじゃいけないのかな。つか六十にもなってこんなこと書いてる自分ってどうなのかな。わからない。とにかくその読み返しまくった文庫版の「中国行きのスロウ・ボート」が何年か前に本棚の整理それも根本からの大がかりなものではなく局地的な小規模なものを経た後でどこかに消えてしまった。今もその本があるはずの棚を子細に眺めてもその影は確認できない。以来この本を読み返したいなと思う度にいやあれ行方不明だったんだという自答を繰り返してきた。プロパーで買い直すのも業腹なのでブックオフで買おうと何度か探してみたんだけど意外に値崩れしてなくて定価の一割とか二割とか値引きされてるだけだった。それはお気に入りの文庫本を買い直す価格としてはお手頃とは言いがたかった。それで買わずにいた。その本がハードカバーで復刊されていた。もちろん文庫版よりもその中古よりもはるかに値が張る。でもこの作品のハードカバー版を目にするのは初めてだったし安西水丸画伯の慣れ親しんだ表紙絵が文庫より大きく印刷されてるのはとても新鮮に映った。だから買った。同じ作者のなんかジャズのレコードについて書かれた新刊も近くにあったけどそちらは買わないことに決めた。この手の本は興味のない立場からすると読んでも何もわからないから。なんか最近のこの作者はクラシックのレコードとか自分の持ってるTシャツとか今回のジャズのレコードとかをテーマにして本を書いておられるけどちょっとさすがにそれってどうなのと古くからのファンは思う。もっと言うとラジオ番組「村上RADIO」だけどそのネーミングはなんなのかなあと思う。たとえば小林さんが「小林RADIO」を立ち上げたり長谷川さんが「長谷川RADIO」を立ち上げたりしますか?そう考えるとなんか「何様?」感があってこの人は昔はそういう人じゃなかったのになあと思う。村上春樹ライブラリーについては言うに及ばずでそのことは前にも書いた気がする。だから僕は昔の本の復刊を寿いで喜んでまたそのページをめくる。ちなみにこの本には「新たな序文」が収録されてると帯にあるけど三ページに満たない特に読む必要のない序文に過ぎないのでこれに惹かれた方は立ち読みに留めた方がいい。と僕は思います。