指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「TVピープル」ですか。

TVピープル (文春文庫)

TVピープル (文春文庫)

今週も「村上モトクラシ大調査」で新しいアンケートが行われた。「ダンス・ダンス・ダンス」ってそんなにビーチボーイズがかかってたっけ?というのもちょっと興味深いけど、個人的にそれ以上だったのが二問目の答えだった。

村上モトクラシ大調査】2・あなたが初めて読んだ村上春樹さんの短編集はどれですか?

1000票中、「TVピープル」が330票を集め、二位の「中国行きのスロウ・ボート」140票に結構な差をつけて一位になっている。灯台守マツモトさんによると、「TVピープル」の刊行は1990年で、1987年に「ノルウェイの森」がベストセラーとなったことの影響ではないかということだ(意訳してます)。

それにしても割と驚きの結果だった。僕は「蛍・納屋を焼く・その他の短編」に投票した。確か最初に読んだ村上春樹さんの作品は「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で、あまりにツボにはまったので、手に入る単行本を手当たり次第に読んだ中の、たまたま最初の短編集がこれだったということだ。「ノルウェイの森」が出るほんの少し前だと思う。

つまり、その三年後には「TVピープル」を読んでいるはずなのだが、今でもつい最近読んだ小説という印象が残っている。もちろん僕が年をとって、1990年なんて最近じゃん、と思っていることもある。実際、他のことでもここ15年くらいを「最近」として扱ってることがままあるからだ。

でもおそらくそれだけではなく、この「TVピープル」には、新しくなった、何かが変わった、と思わせるものが確かにあった気がする。たとえば女性の一人称というスタイルだ。それまでの作品は、どちらかと言えば作者に近い若い男性が語り手で、自分としてはすごく感情移入がしやすかった。だから「眠り」を読んだときには、軽くはじき出されたような気がした。

また、「中国行きのスロウ・ボート」や「回転木馬のデッド・ヒート」に較べ、不思議、と言うか異界、と言うかそんなものが、ずっとパワフルで動かしがたいものになっている。それまでは気づく人は気づくけど、気づかない人は気づかない、でも気づいた人に物語ってもらうとおもしろかったり恐かったりする、そんな異界だったのが、もうどんなに目をそらしても視界に割り込み脅威を与えずにはおかない、そんな異界にレベルアップしてる気がした。

きっと「TVピープル」を読んだときのそうした印象が違和感となり、今でもそのまま心のどこかに生々しく残っているのだろう。それがこの短編集を、つい最近読んだ本、といつまでも感じさせる原因のひとつであることは、確かなように思われる。

それにしても、「TVピープル」が初めて読んだ短編集だった人と「蛍・・・」がそうだった人とでは、村上春樹像にかなり違いがあるような気がするんだけど、どうなんでしょう。