指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

あまり積んでなかった。

どういう本かよくわからなかったけど村上さんの本なので出たら買おうと思っていた。当然店頭にたくさん積んであるものと思っていたけど何軒か書店を見たところほんのわずかしか積まれていなかった。書店員からあまり売れると思われていない積まれ方みたいに…

競争したくない。

(前略)ぼくたちは日常生活ではほとんど何も考えずに、この世界が敷いたラインに沿って生きている。楽だからです。破綻しないかぎりはね。でもなにかが起きて、その引かれた線からずれると、突然どこに行っていいかわからなくなる。これが弱さの共同体にか…

この感じ。

文庫版は二度くらい読んでると思うんだけどこの前ブックオフで単行本の初版の安いのを見つけたので購入。前にも書いた通り処女作の「さようならギャングたち」以来高橋さんの書く独特の哀しみの感じがとても好きだ。村上春樹さんの小説に強烈に引きつけられ…

読み返したかった。

この前「百年の孤独」を読みながらしきりにこの不思議な短編集のことが思い出された。いや思い出すと言えるほど内容を覚えていた訳ではないんだけどいくつかの強烈なイメージがフラッシュバックのようによみがえり次はこの本を読み返そうと思わされた。もち…

覚悟。

この作品のことを知ったのは高橋源一郎さんの文章を通してだった。その後何かの機会でもともとの「神様」という短編は読んだ。隣人の「くま」という個性が持つ独特な存在感を、多少の違和を感じながらもできるだけそのまま日常の中に受け容れたい主人公の姿…

勇気づけられる。

村上さん訳の「大いなる眠り」の文庫が出たのでこの前ハードカバー版を図書館で借りて読んだばかりだしどうしようか迷ったんだけどやはり買うことにした。それで本編は読まずに訳者あとがきだけ読んだ。前にも書いたかも知れないけどチャンドラーの作家への…

電脳という言葉。

高橋源一郎さんについては、親指シフトのオアシス機ユーザーであることもドラクエを始めとしたコンピューターゲームの割にディープなプレイヤーであることも知っていた。ただ親指シフトになぜそれほどこだわるのかがわからなかった。それがこの本によるとワ…

感慨深い。

夢で会いましょう (1981年)作者: 糸井重里,村上春樹出版社/メーカー: 冬樹社発売日: 1981/11メディア: ?この商品を含むブログ (1件) を見る 村上さんはチャンドラーのフィリップ・マーロウものをまねた一節を書かれている。読んだ記憶がないのでたぶん文庫版…

やり直し。

手許に本が無いので記憶に頼って書くしかないんだけど、僕の読みがそれほど間違ってなければ「最後の親鸞」の中で吉本さんは親鸞の最後の思想をとてもシンプルな形で取り出していた。それは、信じる信じないは「面々の御はからい」、つまりそれぞれの好き勝…

未知の「正しさ」を見に行く。

あまりにもたくさんのことが間違ってるように見えるとそれらを正そうという意志は持ちづらくなる。世界はどうしてこんなことになっているんだろうとため息をつくばかりで実際には指一本動かせない無力感にさいなまれる。でもそうした無力感にはやはり自己欺…

浮かないということ。

うちは新聞が違うので高橋源一郎さんが吉本隆明さんを追悼した「思想の「後ろ姿」」を掲載時に読むことができなかった。今はテキストファイルでパソコンの中に保存されている。確か、高橋さんの奥様がツイッターに上げて下さったものをテキストファイルにし…

「ビアンカとフローラ、どちらがいいと思う?」

音声による応答システム「Siri」の反応を試すために筆者はそれが搭載された「iPhone4S」に向かってこんな問いかけをしている。ビアンカとフローラはドラクエ5に出て来るキャラクター。主人公はどちらかと結婚しなければならないんだけどその後のゲーム展開…

語りの強さについて。

たとえばアウレリャノ・ブエンディア大佐が木に頭をもたせかけた姿で死んだ後、いちばん悲しんだであろう母親のウルスラについての言及が全く見当たらず、まるでその代わりのように妹のアマランタが大佐を最も愛していたという記述が唐突に現れる。この作品…

自由の感触。

すごく個人的な話になるけど訳者のあとがきが無ければこの小説の味わいも随分異なったものになっていたはずだ。まずレイモンド・チャンドラーが四十代で失職し生活のために職探しをしなければならなかったと知って共感を禁じ得なかった。なんだ俺とおんなじ…

「族長の秋」について。

ガルシア=マルケスの小説の中で個人的にいちばん読みづらかったのが「族長の秋」で最後まで読み通せず何度か挫折した。高橋源一郎さんじゃなかったかと思うけどこの作品は重要なところに差しかかると文体のスピードが上がるみたいなことをおっしゃっていた…

仇討ちの価値。

たとえばさるかに合戦は仇討ちの話だ。作中の人物も言う通り仇討ちの話はスカッとする。そしてまた作中の別の人物が言うようにスカッとする話には毒が入っている。 村上龍さんの「愛と幻想のファシズム」から不吉な感じを払拭すると本作の文体になるような気…

それはそれで構わない。

講演集ということで作家の生に近いヴォイスが聴けるのではないかと期待していた。でも講演というのは大抵すでに書かれた原稿を読み上げるものだしスピーチ嫌いの作家なら尚更だろう、聞こえてきたのはきちんと管理されたヴォイスだった。よく下調べがしてあ…

アイルトン・セナについて。

個人的には、アイルトン・セナが天才であったかどうかを問うことにさほど興味を抱かない。ただこれほど広く遠く深くにまで届く彼の魅力と、その割にはあまり知られていない彼の実像とのギャップが、ひとつの違和感として、あるいは謎として胸のどこかに引っ…

ドストエフスキーを思わせる。

訳者あとがきの代わりに村上さんのコメントが本に挟み込まれている。ただしより長いバージョンが用意されていてそれは新潮社のサイトでダウンロードできる。例によって訳書にまつわる村上さんの文章はとてもおもしろい。 http://www.shinchosha.co.jp/fz/ 確…

女を分かち合う男たち。

この「短編小説集」に主人公として現れる男たちは特に女に不自由しているようには見えない。でも彼らは何らかの形で女を誰か他の男と分かち合うことを余儀なくされているか、あるいは自ら望んでそうしている。つまり女たちはひとりの男に独占されてはいなく…

村上ラヂオ。

an・an (アン・アン) 2013年 12/18号 [雑誌]出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2013/12/11メディア: 雑誌この商品を含むブログ (6件) を見る ダレカ(id:dareka-backroom)さんに教えていただいた、村上ラヂオを読みたくて図書館へ行った。読書に関する…

震災の後。

絲山秋子著 「忘れられたワルツ」 短編集。全部かどうかわからないけどいくつかの作品では震災の後だという状況が強く意識されている。そこには絶望もあるけどもちろん希望もある。登場人物の世界の組み立て方に同意できない作品もあったけど、世界のあり方…

好感が持てる。

石原千秋著 「謎とき 村上春樹」 お前この手のものは読まないんじゃなかったのかよと言われると返す言葉も無い。新刊でもないし村上さんの最近の作品にも手が届いていず取り上げられているのは最も新しい作品でも「ノルウェイの森」止まりだ。でも立ち読みを…

マッカーシーの台本。

コーマック・マッカーシー著 黒原敏行訳「悪の法則」 訳者のすばらしい解説があるので他に言うことなんてほとんど無い。マッカーシーの何が好きかと言われれば文体だということになる。じゃあその魅力が台本という形でも味わえるのかと言われれば、読む前に…

アンソロジーの愉しみ。

村上春樹 編訳 「恋しくて ― TEN SELECTED LOVE STORIES」 タイトルはちょっとどうなのって感じだったけど読み終えてみるとこうとしかつけられないのかも知れないと思った。こういうアンソロジーを読む愉しみというのはおまかせのコース料理みたいなもので、…

弱さについて。

キャロル・スクレナカ著 星野真理訳「レイモンド・カーヴァー - 作家としての人生」 (前略)この男は破天荒な型破りの天才なのだろうか?それともたまたま小説を書く能力を具えていたただの頼りない、依存症の男なのだろうか?それは正直言ってかなり判断に…

まだお元気だった吉本さん。

吉本隆明が最後に遺した三十万字〈上巻〉「吉本隆明、自著を語る」 遅れて来た吉本信者にとっては著書一冊一冊の位置づけが大変明快にわかって有益なインタビューになってると思う。インタビュアーの渋谷陽一さんの言葉がまたとてもわかりやすい。花田清輝と…

やっと読んだ。

西村賢太著 「苦役列車」 西村さんの本はファンと言っていいほど読んでるんじゃないかと思う。きっかけは芥川賞を受賞したことだった。なのになんとなく当の受賞作を読む機会が無かった。やっと読んだんだけどちょっと期待はずれと言うか、状況のすさまじさ…

発見の行き先。

吉田修一著 「あの空の下で」 ANAの機内誌「翼の王国」に連載された短編を十二とエッセイを六編収めた本。帯には初エッセイとあり2008年に出た本だけど言われてみれば確かにこれまで吉田さんのエッセイというのは読んだことがなかった。小説はだいたい、エッ…

オーヴァー・ザ・ギャラクシー・レイルウェイ。

高橋源一郎 著 「銀河鉄道の彼方に」 読んでいる間、冷たい水にずっと浸かってるみたいに哀しかった。でも高橋さんの小説を読むこととはこの独特の哀しみを読むことだといつも思う。 どこかのエッセイで高橋さん自身が、読んでいる間に他のいろいろなものの…